遺伝子組換表示について

気分・嗜好・おいしさから考える食の機能性

山崎 英恵

●はじめに
 健全な社会生活を営むために必要な機能を維持する上で、こころの健康は身体の健康とならんで重要です。平成25年度から開始された「健康日本21(第二次)」の中でも、こころの健康については、力を入れるべき項目・方向性として、新たに追加されています。食品の機能性に関しては、血圧や血糖値、コレステロール値、中性脂肪値を下げるなど、身体の健康維持や増進に対する効用について、様々な切り口で多くの研究成果が報告されていますが、こころの健康に対する機能については明らかになっていない部分が多く残されています。本講演では、食と気分・神経活動に関する研究成果をご紹介しながら、豊かな食生活実践のための重要なポイントとなる嗜好やおいしさについて考えていきたいと思います。

●気分の変化をどう検出するか?数値化するには?
 出汁を飲むとリラックスした気分になるなど、食の精神面に対する影響は経験的にも知られています。食品が気分変化に及ぼす作用を検討するためには、その変化を数値として表すことが必須です。しかしながら、アンケートなどによる主観的指標だけでは、食品の機能性を的確に表現することが困難であるために、関連性のある項目が相関をもって変化することなどを証明することも重要と考えます。我々の研究では、客観的指標と主観的な指標を組み合わせて食品の機能を確かめることで、より精度を高めた機能性の証明を試みてきました。主観的指標としては、短期の気分状態変化(気分転換など)を評価できるように改良されたアンケート調査を行います。また、自律神経活動は気分状態と深いかかわりがあることが知られていることから、客観的指標として心拍変動測定による自律神経活動評価を使用します。これらの方法により、飲料や食品がヒトの気分状態に及ぼす効果について検討を行ってきました。

●こころの健康を保つ食のデザイン
 我々の研究で、ノンアルコール飲料はアルコール飲料と同等の気分切り替え効果を持つことがわかってきました。例えば、ノンアルコール飲料の中でもワイン風味飲料を摂取すると、特に女性の場合は顕著な変化がみられます。何も飲まない場合(コントロール)には大きな変化が認められなかった気分状態も、ノンアルコール飲料の摂取によりポジティブな方向へと移行します。また、その影響は自律神経活動にも反映されており、ノンアルコール飲料はアルコール飲料と同様の気分切り替え効果をもつことがわかってきました。こうした手法を用いて、市販の飲料だけでなく、食品の成分(香り+味、香りのみなど)や複合的な要素の多い料理など、さまざまな食が私たちの気分状態をどのように変化させるのか、検討を重ねています。

●日本食の精神的効果について
 出汁は日本食の風味を支えるだけでなく、心身に対する健康機能を有することが我々の最近の研究により明らかにされてきています。代表的な出汁のひとつである鰹節出汁は、滋養強壮や疲労回復の効果が経験的にも知られていますが、実際、その摂取により気分状態の改善や計算タスク負荷時の精神疲労の軽減効果があることがわかりました。また、出汁の有効性には香気が重要な役割をもつことも示されています。

●おわりに
 なにかを食べたり飲んだりして、気分転換やリラックスすることは、日常的に私たちが利用している実は一番身近な食の機能性であるかもしれません。なりたい気分になるには、どのような食品の味わいや香気を摂取すればよいのか?さまざまな気分を効果的に誘導できるようになれば、こころの健康を維持・増進する上でも大変有効な手段になると考えています。

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