一般社団法人 日本植物油協会 社団法人日本植物油協会は、日本で植物油を生産している企業で構成している非営利の業界団体です。

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植物油サロン

食に経験や造詣が深い著名人、食に係わるプロフェッショナル、植物油業界関係者などの方々に、自らの経験や体験をベースに、
食事、食材、健康、栄養、そして植物油にまつわるさまざまな思い出や持論を自由に語っていただきます。

第5回 貧しい時代に育った私にとって、「料理」は永遠の夢と憧れ。 料理写真家 佐伯義勝さん

初めて出会った美味に魅せられて、料理写真の道へ

料理写真家 佐伯義勝さん

昭和2年生まれの私にとって、食の原点といえば戦時中のおふくろの味。早朝まだ私が寝床にいる間に、母がじゃが芋を食用油でシャッシャッと炒めて弁当のおかずを作ってくれました。日本全体が貧しく、食べる物といえば芋とかぼちゃくらいの時代。その頃強烈に抱いた食べ物への切実な夢が、後年の私を料理写真家へと導いたのです。

写真家になったばかりの1957年頃、私は雑誌「婦人画報」の表紙から建築、着物、ルポルタージュまで、ヌード以外はすべてと言っていいほどさまざまな写真を撮っていました。その中で最も心を捕らえられたのが料理です。物のない時代に、おいしい物など食べたこともなく育った私は、撮影で見事な料理に触れるたびに、「世の中にはこんなうまい物があるのか。それなら食いたい、撮りたい!」と思ったのです。

恩師と言える方々との出会いにも恵まれました。アートフラワーと料理の大家・飯田深雪さん、江上料理学院の江上トミさん、懐石「辻留」の辻嘉一さん。特に辻さんには「料理とはこういうものだ、よう見とけ!」と教えられ感心するばかり。それも博物館や美術館所蔵の國宝級の器に、この料理名人が旬の食材を一気呵成に盛りつける光景には大変な感動と高揚感を覚えたものです。思わずぼうっと見とれてしまい、「何しとる!早く撮れ!バカモン!」と背中を引っぱたかれたこともしばしばでした。魚の塩焼きなどはぐずぐずしていると皺が寄るし、塩に油が回って黄色くなってしまうのです。そんな方々に多くのことを教えていただけたのは本当にありがたいことでした。

おいしい物は美しい--それをそのまま写し出す

私の師匠である木村伊兵衛は「料理は(女性と違って)『あなた』なんて色っぽく呼んだりしてくれねえ」などと言いましたし、「たかが食い物じゃないか」と思う人もいるでしょう。でも、おいしい物はやはり美しいのです。だから私はいつも料理を「おいしそうに、美しく」撮ることを心がけています。たとえ嫌いな物や、まずそうな物でも、自分がおいしく撮ってやろうと思う情熱や、いい写真が撮れたときの達成感はかけがえのないもの。真夜中に魚料理を撮影しているとき、鱗がキラッと光ったからと喜んで「バンザーイ!」などと言っていると、我ながらバカみたいだとも思いますが、やはりいつも仕事が楽しいのです。そんなふうに料理写真を撮り続けて、いつの間にやら50年。そういう意味では自分が愚直であることを幸せだと思います。

そんな私ですが、日頃から料理を研究したりはしていません。「体にいい物を食べなくては」などと考えて食べたこともなく、いつもそのとき食べたい物を好きなだけ。ファストフードだって好きですが、太ったこともありません。毎日必ず食べている物といえば、かぼちゃ。毎朝、1/3個を電子レンジでチンして蒸し、ヨーグルトをかけて食べます。かぼちゃは戦時中に露命をつないだ食べ物。昔の“友人”は大切にするほうなんです(笑)。植物油を使った料理でいえば、よく自宅で食べるのはピーナツオイルを使った餃子や、植物油で揚げるかぼちゃのフリッター。妹尾河童さんから教えてもらったピエンロという中国の鍋料理もあります。白菜と豚肉を水だけで煮込むんですが、仕上げに塩少々とごま油をたっぷり掛けるんです。本当においしいですよ。

高揚感と達成感を覚える料理写真を撮り続けていく

私の夢は、これからも高揚感を得られる料理写真を撮り続けていくこと。いい写真を撮るためには採算を度外視してでも、やりたいこと、やるべきことを貫きます。最近は小さなストロボやカメラでカジュアルに撮影する料理写真が増えていますが、私はすみずみまでピントの合った美しい料理写真にこだわります。なぜなら特に日本料理は日本画の世界。または推敲を重ねた名文と同じ。それはボケてはいけないのです。私は写真で一番大事な事は情報だと考えますが、料理のすみずみまでの情報を伝えられる写真を撮るためには、それだけ大がかりな仕掛けが必要になるのも事実です。

先日も京都の料亭「瓢亭」で撮影しましたが、事前に7つの荷物で撮影機材を送り、当日もスタッフ全員リュックを背負うほどの機材の量。それも1万5000ワットものライトと、大型のカメラを使った撮影のためです。身体的にはきついこともありますが、それでも疲れないのは、やはり好きで面白いことを楽しんでいるからでしょう。それに私を見込んで撮影を依頼していただくこと、「いい写真を撮ってくださってありがとうございました」と言っていただくことは本当に大きな喜び。その気持ちに十二分に報いるためにはどんなことでもする--それが私の写真家としての生きざまなのです。

プロフィール 佐伯義勝

佐伯 義勝(さえき よしかつ)

料理写真家

1927年 東京生まれ
明治大学カメラクラブを経て、サンニュース社に入社。
1952年頃から、婦人画報で写真を撮りはじめる。

最初は同誌の表紙から手芸、ルポルタージュ、建築インテリア、ファッションから始まり、辻 嘉一氏と博物館、美術館などの貴重な器に料理を盛る撮影を依頼され感動し、それ以来料理一筋のカメラマンとして現在に至る。

木村伊兵衛氏と土門拳氏に師事。

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