一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。

植物油サロン

食に経験や造詣が深い著名人、食に係わるプロフェッショナル、植物油業界関係者などの方々に、自らの経験や体験をベースに、
食事、食材、健康、栄養、そして植物油にまつわるさまざまな思い出や持論を自由に語っていただきます。

第17回 最高のくつろぎ空間で、フランス料理の粋を極める「ラ・ビュット・ボワゼ」 オーナーシェフ 森重 正浩さん

山野草を積極的にレシピに取り入れる

オーナーシェフ 森重 正浩さん

私は幼い頃から、父と一緒に近くの山で松茸やキノコなどの山の幸を摘んだり、鮎やタコやアナゴなどの海の幸とも触れ合って、新鮮な食材を気軽に収穫し、その料理を楽しむという環境に育ってきました。

またフランスでの修行時代に“キュイジーヌ・レジオナール”(地域に密着した素材を使った料理)を実践するシェフに巡り会い、山草や野草を採取した時の楽しい思い出が、今の料理の創作の原点をなしているのです。その最も影響を受けたシェフとは、ジュネーブ近くのアヌシーの「オーベルジュ・ド・レリダン」で“香草の魔術師”と謳われた、三ツ星シェフのマーク・ヴェラさん。この方とアヌシー山麓の野山を駆け巡った経験があるからこそ、今もスタッフとともに丹沢などの山に入り、山野草を摘んではレシピに取り入れている自分があるのです。

三島からはフレッシュ・ハーブを毎日取り寄せ、秦野の農家からは無農薬有機野菜を、大美伊豆牧場からは低温殺菌の牛乳をはじめ、卵やシャモ肉、そして小田原漁港からの伊勢海老やホタテ貝などの新鮮な魚介類など、とにかく元気な素材を使用することを徹底しています。

開店当時は僕もまだフランス本土の手法にこだわっていた部分がありましたが、今はここでしかできない“キュイジーヌ・レジオナール”を無理なく実践できるようになりました。農家の方々にほぼ理想どおりの野菜を作ってもらえるようになったのも、長いおつきあいの賜物。素材のオートクチュールなんて究極の贅沢ですよね。フォアグラやトリュフといった食材以外は、無理をしないで身近にあるものから選択し、自然のものが持つ香りをそのまま残すことを心がけています。

リンドウの根をリキュール漬けにしたり、あるいはクレソンの根を油漬けにしてソースに仕立てたりと、私の料理は山野草を積極的に取り入れた香りの高さに大きな特長があるのですが、もちろんメインとなる食材へのこだわりを怠ることはありません。

年に1回はジビエ(※狩猟によって食材として捕獲された野生の鳥獣)用に北海道に赴いて旭川のヒグマなどを収穫に行くのですが、生物の尊い命を自ら目の当たりにしているからこそ、無駄にはできないと料理へ注力することができます。そして何より、収穫地での猟師さんとのやり取りやエピソードなど、自らが経験した食材にまつわるストーリーが生まれ、それをお客様と共有することで、一段とコミュニケーションの濃度を深めていくことができるのです。

「料理」とは、五感を刺激する唯一無二の存在

この店には定番メニューはほとんどなく、その季節にしか味わえない、旬の素材いっぱいのメニューをお届けするようにしています。メインディッシュのみならず、9~12種類のハーブをブレンドしたフレッシュハーブティーや、山で取れた実や旬の果実を漬けたリキュールを楽しみに来店されるお客様も多いんですよ。

特にハーブティーは、口中にパーッと草原が広がるかのような爽快な味わいが食後にふさわしいとの声をいただいています。また私にとってハーブは、旬の素材を生かすための心強い味方でもあります。新鮮な魚と野菜、それぞれの最高の相性が生み出される時、フランス語で“ボン・マリアージュ!(※素晴らしきの結婚の意)”と言うんですが、その素材同士を上手に結び付けてくれる仲人役が、私にとってハーブなんですね。

マリアージュと言えば、この季節の人気メニューのひとつ「春の貝類(赤貝、北寄貝、ハマグリ、サザエ)と豆類のスープ仕立て バルサミコ風味のイチゴのピュレ添え」は、まさに大地と海のマリアージュ。豆類のスープとイチゴのピュレの組み合わせは絶妙な酸味と甘みのバランスで、さっぱりとした味わいを楽しむことができます。ピュレに添えられた、スナップえんどう、空豆、グリーンピースなど野菜のシャキシャキとした食感と、肉厚な魚介類の歯ごたえがアクセントになって、とても好評をいただいる一皿です。

ありとあらゆるところに良い素材を求めるのが私のスタイルですが、この姿勢は、食材だけではなく、店内の装飾やお皿やワインにも一貫しています。昭和の画家で最後は名誉フランス人として一生を終えたレオナルド・フジタや、ベルナール・ビュフェなどの絵画を飾り、お皿はリモージュやロイヤルコペンハーゲンなどを使用しています。とにかく、時計でも車でも何でも、“ヨーロッパ志向”が半端ではなく強いんですね(笑)。

非日常といいますか、ここではお客様に、いろんな意味で“驚き”を感じて欲しいんです。特に料理は、五感を刺激する一皿であるかどうかを常に意識して創作していますね。ジビエの時期などは、最初にお客様に青首鴨の「実物」を披露して、多少ひかれたりしますけど・・・(笑)。とにかく世の中にはいろんなものが氾濫しているんですが、五感を刺激する要素が見事に集約されているものは、料理以外には見当たりません。だからこそ私はシェフという仕事に魅了されているのかも知れませんね。

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緊張することなく、おいしさに夢中になれるように

私のお店の名前「ラ・ビュット・ボワゼ」とは、フランス語で“小高い丘にある樹木に囲まれたレストラン”を意味します。東京・田園調布と自由が丘のほぼ中間にあたる奥沢の静かで落ち着いた住宅街の一画に位置し、坂道を少し登ったところに静かに佇んでいます。

築60年の妻の実家である日本家屋の良さを残しながらアレンジした店内や、季節を感じさせる庭の木々は、いわゆる「昔のおうち」そのまま。“ワクワク・ドキドキ”というよりも、知人の家庭に招かれたような、そんな柔らかいくつろぎ感を醸し出せているのではないか思います。じつは、フランス人やイタリア人が日本家屋に住むとどんなイメージになるのかな?と想像を膨らませながら店づくりを進めていきました。

庭には樹齢100年を超える桜があり、桜が咲き誇る頃のご予約は、お陰様で1年位前から一杯になります。そのシーズンはウエディングパーティのオーダーも数多くいただいています。目の前に広がる庭の自然を眺めながら、新鮮な自然の食材を味わっているうちに、いつの間にか自然と渾然一体になったかのように感じられるお客様も多くいらっしゃるようで、「幸せな気持ちになる」とか「元気になれる」といった言葉をいただけると、とても嬉しく感じます。

植物油はオリーブ油をはじめ、はしばみ油、なたね油、くるみ油、グレープシードオイル、アボカドオイル・・・。もう本当に様々な種類のものを様々なレシピに取り入れています。クレソンを鍋に入れて水と油の層にして沸騰させて香りを移したり、なたね油を香ばしくお野菜のソースにたらしたり、揚げ物はこめ油を使ってカラツと揚げたり、くるみ油をドレシングに活用したり、トリュフの油はソースにしてお魚やお肉の香り付けに使用したり・・・。あまり一般の方はご存知無いかも知れませんが、中華料理だけではなくフランス料理にとっても植物油は欠かせないものなんですよ。

私はこれからも、フランス料理を肩ひじ張ることなくリラックスしながら味わっていただくこと、言いかえれば、決して緊張することは無いままに、気がつけば料理のおいしさに夢中になっているような、そんな素敵な空間を提供していきたいと考えています。

プロフィール 森重正浩

森重 正浩

「ラ・ビュット・ボワゼ」オーナーシェフ

1961年広島生まれ。
服部栄養専門学校を卒業後、東京・西麻布の「プティ・シャニー」に入店。 渡仏してパリの「リュキャ・カルトン」にて修業したのをはじめ、フランスとイタリアの著名なレストランでの自然に囲まれた生活の中で、その土地土地にできる食材を使った料理スタイルを習得。

1991年に帰国して箱根「オー・ミラドー」に入店後、その姉妹店「ステラ・マリス」の料理長を経て、
1994年に東京・奥沢「ラ・ビュット・ボワゼ」のオーナーシェフとなり現在に至る。
食材にこだわりながら、心と体にやさしい料理を作り続けている。

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