一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。

植物油サロン

食に経験や造詣が深い著名人、食に係わるプロフェッショナル、植物油業界関係者などの方々に、自らの経験や体験をベースに、
食事、食材、健康、栄養、そして植物油にまつわるさまざまな思い出や持論を自由に語っていただきます。

第15回 しなやかに現代(いま)を生きるために 作家・エッセイスト 神津カンナさん

「脱・常識」のすすめ

作家・エッセイスト 神津カンナさん

日本はとても豊かに見えますが、日本の食料自給率はこの50年で半減し、カロリーベースでたったの40%。だから私たちは年間約6千万トンもの食料を輸入しているんです。

その一方で廃棄される食料は、約2千万トン。これは、貧困国1国の食を3年間まかなえる量といわれています。私は講演に招かれると、この我が国の現状を「借金があるのに浪費しているみたいでカッコいいものじゃないですよね」と参加者に語りかけています。

世界には飢えや貧困でその日の食事も満足にできない人々が沢山いるのにもかかわらず、これだけ環境問題を取り上げて毎日ニュースになっていても、日本人が出す食料のゴミが年間トータルで約2千万トンになっているという警告はあまり発信されない。

そのくせ私を含めて大方の女性、あるいはメタボ系の男性は食べ過ぎないようにと奮闘し健康食を探し求めている・・・。日本で自給できるものだけで料理を作ったら食べられるものがどれだけ少ないかという、今まさに「大人のための食育」が必要とされているのかも知れません。

以前、インドシナ難民が日本に来て、「飲める水で身体を洗う」という事実に歓声をあげました。それもそのはず、世界の人口約67億人のうち約10億人、7人に1人が、安全な水を確保できていないのです。

地球は水の惑星だといわれますが、その97%は海水で、「生活水」=生き物が使える水はたったの0.01%。蛇口をひねれば常に清潔な水が出るという日本の常識は、世界から見れば、とても特殊な環境だということです。そして、エネルギー問題。資源がほとんどない国である日本のエネルギー自給率は、わずか4%。繰り返し使用できる原子力発電を加えても、たったの19%です。

先進国の中でも特に低い数値で、火力、石炭、天然ガス、そのほとんどを輸入に頼っています。私たちの今の生活レベルをまかなうためには、「どこかに頼らなければ続かない国」であることを、しっかりと自覚する必要があるのです。暮らしやエネルギー、そして未来を考えるとき、表面的な豊かさだけを見ていては、本当の問題は見えてきません。

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「違う角度から物を見る」ことが大切

芸術一家に生まれた私は、幼い頃から父親に「人と違う角度からものをみることの大切さ」を教えられてきました。「多角的に物を見る」ということは、「いったん枠をはずす」ということ。「当たり前」と思っている時が、実は一番視野が狭くなっている時。他の見方があるかもしれないという疑問を持つことすらできなくなる・・・。そう諭されたものです。

大切なことは、物事の枠をはずして見たり、逆に枠にはめてみて、いろんな視点から物事を見ていくこと。こういうものだと思って世の中を見ていたら、何ひとつ進まない。違う角度から光を当てながら、みんなで全体像を見ていく気持ちを持っていたいと考えています。

私は今、内閣府の男女共同参画会議議員を務めていますが、食の安全や食育の観点から農業への参加意欲を持つ女性が増えているので、このような意識の人々の参加を促進させる手法を模索しています。自分の見方だけで判断するのではなく、知恵を出し合って考えないといけないんです。

私の曾祖母の時代には、女性の仕事は家事と子供を産むことでしたが、今は社会に出て仕事を続けることも専業主婦になることも可能であり、夫も家事をする時代になった。男女共同参画といっても、短期間に劇的な変化を望むのは無理ですから、知恵を出し合いながら少しずつ居心地の良い関係になっていけばよいのではないかと考えています。

物の見方ということで言えば、日本では世界各国のあらゆる料理が商品化され、各国の良さをアレンジして日本ならではの独自性を出していますけれど、昨今の生活者は本当に、日本古来の伝統料理と向き合っているのでしょうか。

女性の料理を学ぶ姿勢も短絡的で、料理本来のだしの取り方といった本格的な講座よりも、たとえばクリスマスなど、身近な目的をこなすための講座が人気とか。中国やフランスなどと比較すると、食卓から伝統的な民族色が無くなってしまっているのが現状と言えるのではないでしょうか。その土地ならではの独特の料理文化が息づいていないとしたら、それはとても悲しい現実ですよね。

これから高齢化社会や結婚率の低下など核家族化がすすみシングル世帯が確実に増加していくことが予測されますから、食の在り方がますますテーマになっていくことは間違いありません。食べてくれる人が横にいるから料理も頑張れるという側面がある中で、私たちはこの手で何を作っていくのか、豊かな食生活とは何なのか、これからも問い続けていかなければならないと考えています。

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「火と油のコラボ」は、やはり魅力的

私は作家としての習性もあってか、あるゆるものごとを追求していきたくなる性分です。いま夢中なのは、大鼓(おおつづみ)などのお囃子の和楽器。演奏家として、まもなく音楽家の父とともに舞台に立つ予定です。お囃子のリズムをとる中心的な役割を果たし、曲の変わり目の間合いやキッカケを司る重要なパートなので、今は稽古に余念がありません。

かつてテレビ出演でビートたけしさんとお話した際、「趣味は本当に楽しむまでには時間がかかるので、続けていかないと楽しむ所までは到達しない」と言われたことを胆に銘じている次第です。

外食が多いので、料理は好きな時に好きなタイミングで作っています。おもに植物油は、サラダや温野菜のドレッシングとして気軽に活用していますね。植物油は鮮度が命ということも言えると思いますから、生産工程の効率の問題などはあるかと思いますが、できれば使い切りサイズの商品群を増やして欲しいですね。

あるいは、たとえばネギが香るフレーバー・オイルの種類を増やすとか・・・。こうした工夫で、植物油の消費がもっと促進されていくのではないかと感じています。

かつて私は「子どもは必ず一度は海外に出す」という両親の方針でニューヨークへ留学していましたが、その時のパーティにはイタリア人も中国人もいて、それぞれの料理で植物油を使うタイミングや手法に共通点を見出したことが大きなカルチャーショックでした。植物油があらゆるジャンルの料理に欠かせないものであることを改めて認識したのもこの頃でしたね。

そして何より、お幼い頃の“夕げの香り”・・・。お味噌汁の香りと同様に、ギョーザや野菜炒めなど、火と油のコラボレーションが胃袋を鷲掴みにする、この香りが今でも大好きなんです。大好きなビールにもよく合いますしね(笑)

植物油にも使われるトウモロコシなどの原料が、食用から燃料用に転用されて食料危機を招いているというニュースが話題となっていましたが、いずれにしても、食料もエネルギーも今後はセキュリティー、つまり確保が大きな課題となります。私たちは地球全体の環境も考えながら自分たちの国、そして暮らしのことも考えなければなりません。

厳しい時代ではありますが、私は日々の暮らしの中で、物事を総合的にとらえ、現状を冷静にとらえる目を養っていく姿勢を持ち続けていかなければならないと考えています。

プロフィール 神津カンナ

神津 カンナ(こうづ かんな)

作家・エッセイスト

作曲家の神津善行、女優の中村メイコの長女として東京に生まれる。
東洋英和女学院にて、幼稚園から高等部まで学び、その後、渡米。アメリカのサラ・ローレンス・カレッジにおいて、演劇を学ぶ。

帰国後第一作の「親離れするとき読む本」は、体験的家族論として注目され、ベストセラーとなる。

以後、執筆活動の他、テレビ、ラジオの出演、講演、また、公的機関や民間団体の審議委員なども数多く務めて精力的に活動。
さまざまな分野をクロスオーバーさせて問題提起する、その発言や文章は、豊かな感性と冷静な視点に支えられ、幅広い層から支持されている。

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