一般社団法人 日本植物油協会 社団法人日本植物油協会は、日本で植物油を生産している企業で構成している非営利の業界団体です。

com_img_logo2_description

練の技に学ぶ、植物油の生かし方 職人の知恵袋

バックナンバーはこちら

「植物油っていろいろあるけれど、使い方がもう一つ分からなくって・・・。」
「あのお店の天ぷらは美味しいけど、家庭であの味を出すのは無理よね・・・。」
「油をもっと上手に使うコツってあるのかしら・・・。」どなたでも、こんな疑問をお持ちではないでしょうか?
確かに、油の使い方は調理方法や素材によって千差万別。お料理の本でも丁寧に解説しているものは少ないように思います。
このコーナーでは、「和・洋・中」の料理の達人に「植物油の上手な使い方、生かし方」をお聞きし、皆様の疑問やお悩みにお答えいたします。
食通をうならせる熟練の技を持つ達人たちの「逸品」。その隠された創意工夫の一端を知るだけで、いつもの料理が得意料理に変身するかもしれません。
そして、変身したお味にご家族のみなさんも大満足!さあ!達人の知恵を知り、四季を通じて「植物油を生かした美味しい料理」をお楽しみ下さい。

第3回 都に息づく肉文化「ビフカツ」
「ビフカツ」とは、牛肉のうま味を閉じ込める料理
おいしいものだけを一生懸命に提供していくことを心掛けているという大西康夫さん。

関西でカツと言えば、トンカツではなく「ビフカツ」。肉じゃがやカレーの例を持ち出すまでもなく、関東は豚肉、関西は牛肉が好まれる傾向があるというのは有名な話です。

「なかでも京都は、懐石に代表されるあっさりとした食文化と思われがちですが、ラーメンはこってり系を好むし、牛肉の消費量もトップクラスと聞いています。但馬・近江・松坂という3大産地の中心に京都は位置していますから、牛肉の食文化が発達して当然な土地柄なのかも知れません」

と語っていただいたのは、京都・肉専科「はふう」料理長の大西康夫さん。初めに「ビフカツ」を揚げていただくと、そのヒレ肉はとても柔らかく、少しだけレアな揚がり具合は、うま味たっぷり。けれど、後味はすっきり。植物油はコーンサラダ油を使われています。

「何より香ばしさ、そして日持ちの良さを考慮して、コーンサラダ油を選んでいます。カツばかりではなく、コロッケやハンバーグからサラダまで、幅広く応用できますしね。素材の味を引き立ててくれるので気に入っています」。

それでは、おいしい「ビフカツ」が揚がるまでには、どのような秘訣が隠されているのでしょうか?

「まず、お肉をくぐらせる“溶き卵”ですが、卵を十分に溶かないと、揚げた後に肉から衣がはがれやすくなります。次にパン粉。粗いパン粉は余分な油分を吸い込んでしまうので、キメの細かいものを選びましょう。そして、天ぷらの衣でも同じようなことが言えると思いますが、パン粉をつけて長く置いておくと、素材から水分が逃げ脂分も余計に吸い上げてしまう。パン粉をつけたらすぐ揚げるというスピード感を意識して欲しいですね」

「ビフカツ」が揚がるまで

カツは揚がったらバットなどに寝かせず、立てておくと油のキレがよいとのこと。温度や揚げるタイミングについては、どのような姿勢で臨まれているのでしょうか?

「高温で短時間に、お肉のキレイなピンク色を残すようにサッと揚げる。揚げ時間については、これは感性とういか、スポーツのように身体で覚える部分なので説明しにくいのですが、1分~1分半位が目安かも知れませんね。何より、箸で素材を持った時のフワッとした感触を大切にしています。また、パスタがたくさんのお湯で茹であげるのと同様に、できれば多くの油を使いながら、決して食材で温度が下がることのないように、食材を入れたら少し温度を上げていく位の準備が必要だと思います」

美しいピンク色の「ビフカツ」の色味は、柔らかいジューシーなお肉であることの証明。デミグラスソースは、牛筋を焼いて煮込み、できる限りあっさりとした風味に仕上げる。

そして、揚げてから2~3分置いてから包丁を入れることが重要とのこと。そうすれば、余熱で中まで火が通り、レア過ぎることなく、ジンワリとキレイなピンクの色が滲み出る状態に仕上げることができるそうです。

「牛肉は半生でも食べられるから、揚がり加滅を気にするトンカツより簡単に揚げられる。でも、カツとは揚げることが目的ではなく、うま味を閉じ込める料理。溶き卵やパン粉も、そのための作業と考えるとわかりやすいですよね」 と大西料理長。そのジューシーな肉のうま味と、決して主張し過ぎることのない上品な味わいのデミグラスソースは、京都の肉文化が本当に奥深いことを感じさせる料理に仕上がっていました。

口全体が幸せ感に満ちてくるカツサンド
カツサンド

ヒレ肉は、サーロインと並ぶ牛肉の最高部位。キメ細かく柔らかくて脂肪が少ないので、ステーキやカツなどの焼き物や揚げ物に最適と言われています。

「牛肉には各部位にそれぞれ特徴があり、その取り扱い方によっておいしさの違いがでてきます。購入する際、鮮やかな赤色をした新鮮なものを選び、鮮度のよいうちに使いきるのが大切なポイン卜です。ご家庭でのお肉選びは、肉自体にツヤがあるかどうか、そして、キレイなピンク色をしているかどうかを重視していただくと良いでしょう。あまり赤色が強すぎると、逆に良くないと思います」

肉料理を食べた後のお土産用にと箱に詰めたのがはじまりという、絶品のカツサンド。

ほどなく提供いただいたヒレ肉のカツサンドを頬張ると、ジューシーな肉汁とトマトの酸味、マヨネーズの甘酸っぽさが渾然と混ざり合い、口全体が幸せ感に満ちていきます。分厚いヒレ肉もスッと噛み切れ、マスタードがはんなりと利いて、まさに完成された“ごちそう”に仕上がっています。

「パンでカツをサンドしたというよりも、カツがメインでサイドをパンで包んだと言った方がふさわしいかも知れません。カツサンドの醍醐味は、肉汁をいかに閉じ込めるかにあります。軽くトーストしたパンに歯がスッと入ったところで衣のややとがった食感があり、あとは肉汁が口の中に溢れてくるイメージですね」

外側のパンを頬張ると、自然にお肉の芯まで歯が辿り着くかのような食感。 一緒に挟まっているトマト・タマネギ・レタス、それらをまとめ上げているドレッシング自家製ソースとの相性も絶妙で、あっという間に食してしまいます。

「トンカツは時間の経過とともにすぐ固くなってしまいますが、牛のヒレ肉は繊細でキメが細かいので、冷めてもおいしい。だから、テイクアウトされる方が多いですよ」

このお店からほど近い鴨川で、心地よい風に吹かれながら頬張ってみたいと思わせるに十分な、圧倒的なボリューム感と満足感を届けてくれる逸品でした。

モノの価値観が薄れている今こそ、“本物の肉”を提供したい
吹き抜けの中庭から柔らかく降り注ぐ光が印象的な店内。

京都御所から歩いて5分の閑静な住宅街に佇む「はふう」には、オーナーの実家が100年以上もこの地で精肉店を営んできたため、現在も熟成された食べ頃の和牛が毎日届けられているそうです。

「せっかくいいお肉なのですから、特別なことをせずに肉のうま味をストレートに味わって欲しい。肉に自信があるので、素材も作り方もいたってシンプルにすることを心掛けています」

と大西料理長。ただ、昨今のデフレ時代の到来にともなう“食のお値打ち価格”の流行には、強い危機感を抱いておられます。

「最近は、みんな本物を食べていない。これだけモノが安くなると価値観が薄れ、本物を食していない方が増えているのではないでしょうか? だからこそ、リーズナブルに本物の味わいを堪能して欲しいんです。最初は高いと感じたお客様も、ウチのお肉を食べれば納得いただけると思いますよ」

たとえば、肉本来のうま味を十二分に堪能することができるリブロースのお刺身。その口あたりを他店で味わうとすれば、倍以上の金額を支払うことになると想定されます。

「いい素材を使っておいしく仕上げるのは、プロとしては当たり前。食材費を抑えながら、いかにおいしく仕上げるかが、プロとしての生きがいであり、腕の見せ所だと考えています。そして、初めて来店したお客様でも、ゆったりとした穏やかな『気』をもつ空間を醸成することで、決してお客様に『気』を使わせる事のないように、肉本来のおいしさを身近に感じて欲しいと常に考えています」

お腹いっぱい食べても胃がもたれることなく、香ばしく、口当たりよく、うま味がたっぷりなのは、ビフカツやカツサンドに留まることなく、ハンバーグやビーフシチューなど、このお店のあらゆるメニューに共通して言えること。都ゆえに古くからあらゆる食材が集まってきていたこの地で、これからも大西料理長は、肉文化をしっかりと継承していかれるのであろうと感じました。

大西康夫さん プロフィール 京都『はふう』大西康夫さん

1960年1月4日生まれ(49歳)
京都生まれ。中学生の頃から様々な料理に親しみ、食材にブランデーをかけて火を入れるシーンに代表される、洋食の華やかなイメージに憧れこの道に入る。京都「はふう」には本店と御所南店があるが、そのどちらも管轄する料理長として腕を振るっている。
「はふう」という店名は、「快ちよい波(は)にゆれ、風(ふう)にふかれたいもの」という創業者の想いから付けられたもの。「波と風を心に感じながら、お客様にゆったりとした気持ちでお食事をして欲しい」との、おもてなしの精神が店名に象徴されている。