第六次改定における脂質所要量の読み方
熊本県立大学環境共生学部
食・健康環境学専攻 菅野道廣

1.所要量改定の背景

 世界に誇れる第6次栄養所要量が策定され、本年度から適用される。わが国の栄養所要量は5年ごとに改定されてきており、常に斬新な情報が取り込まれていて、世界の範と言えるものである。基本的には、栄養摂取基準(注1)という新しい概念を導入して策定されたが、脂質の場合、この基準に叶う情報が欠けるため、結局はこれまでと同様な観点から策定された。なお、従来から、欠乏症の予防だけでなく過剰摂取への対応も考慮されてきたが、今回の改定ではこの点がとくに強く意識されている。脂質摂取の現状と国民健康の行く末とを考慮に入れたものであると言える。
 しかし、所要量の基本概念である健康者を対象とした科学的栄養情報はどの栄養素についても十分ではなく、とくに脂質の場合、事実上皆無ともいえる状況にある。このことが、動物実験の成績の無責任なヒトへの演繹の原因となっているわけでもあるが、動物実験の成績はあくまでも参考情報に止めねばならぬことは言うまでもない。しかも、利用できるヒトでの成績のほとんどは、高コレステロール血症(注2)の予防・改善に関するものであるという偏りもある。しかし、このような背景にあっても、関連する情報を許される範囲で解析・活用して、所要量を策定することができる。
 栄養素の中で、脂質ほど一般市民の関心を集めているものはないが、多くの生活習慣病が脂質摂取の不適切さに起因するという背景を考えれば、当然のことであろう。
 ともかく、この新しい所要量をどう読むのかが問題である。そのため、まず、栄養所要量は「健康な人」を対象としているものであり、病気からの回復に必要な摂取量とは次元が異なることを熟知しておかなければならない。これを取り違えると、とんでもない結論を導くことになる。
注1: 米国で用いられてい栄養所要量の考え方で、適正摂取量あるいは平均必要量を基に求められた栄養所要量と許容上限摂取量などの数値が含まれる。
注2: 血清コレステロール濃度の上昇は動脈硬化・心臓病の危険因子であるので、ある濃度以下であることが望ましい。わが国では220mg/dL以上を高コレステロール血症とみなしている。
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