菜種生産の限界に挑むカナダ

4.カナダ菜種協会の菜種生産拡大計画

Great Growth 2015の策定

 キャノーラの生産は、1990年代に更に増加を続け、1999年には900万トンに迫る生産を記 録しました。しかし、この時期においてキャノーラは西部の平原3州の農業においては、小麦、大麦の後塵を拝するマイナー・クロップの位置づけを脱却するものではなく、小麦、大麦の市場条件によって生産が変動しました。 2000年代初め、菜種の生産は、天候不良と他の農産物との競合により停滞することとなりましたが、2004年、カナダ菜種協会は、カナダ農業・農産食料省の農業生産見通し(フレームワーク)において、菜種は700万トンを維持することを宣言しました。これは具体的な生産計画を意味するものではありませんでしたが、菜種はもはやマイナー・クロップではなく、平原3州の主要農作物の一つであるとのテリトリー宣言ともいうべき性格を有していました。

 1995年に遺伝子組換え技術を活用した除草剤耐性菜種が開発され、除草剤使用数量の低減と農家の労働負担の軽減が実現するなかで、700万トンという数値は、菜種関係者が今後の菜種(キャノーラ)生産に対して大きい自信を有したことを示すものでもありました。また、菜種が平原3州で生産される農作物のなかで、高い収益性を実現する作物になっていたこともその背景にありました。

 2004年の生産量が700万トンを遥かに上回る実績を示す中で、カナダ菜種協会は菜種生産拡大計画の策定作業に着手しました。
 2007年、カナダ菜種協会は、”Great Growth 2015” (「2015年菜種生産拡大計画」と訳します)を策定しました。「2015年の菜種生産目標を1,500万トン」とする遠大な計画を、日本の製油業界は驚異の眼を以て受け止めましたが、その実現には疑問の声があったことも否定できないことでした。

【 表1 Great Growth 2015の概要 】 図T  我が国の菜種搾油量の推移

しかし、カナダ菜種協会は、この計画に対し強い自信を示しました。強い自信を裏付ける材料は、次のようなものでした。

  1. (1)上述したとおり、西部平原3州において菜種はもはやマイナー・クロップではなく、他の農作物に対しても収益性が相対的に高い位置にあること。
  2. (2)除草剤耐性品種の登場により農家の労働軽減、除草剤使用の低下、作業効率の向上が見込まれること。
  3. (3)これらにより、菜種の生産に振り向けられる耕地の増加が見込まれること。
  4. (4)多収性(ハイブリッド)、高油分の品種改良が着実に進んでいること。
  5. (5)国内における菜種搾油工場の改造・新設が行われ、国内の搾油能力が飛躍的に高まると見込まれること。
  6. (6)アメリカにおいて、菜種油が健康に寄与する油であるとの表示が認められ、このような動きが広がることによって菜種油需要の一層の拡大が期待できること。

 この計画は、キャノーラの開発に懸命に取り組み、日本への輸出拡大を主な目標とした時代から、カナダの菜種が国際市場を目指すという新たな段階へと移行することを示すものでもありました。しかし、この計画においても、日本は重要な輸出先として位置づけられていました。既に、中国の油需要が幾何級数的に増加している時期であり、瞬間的にカナダからの菜種輸入が急に増加することもありましたが、なお、中国を安定的な需要国として多くを期待することは適切ではなく、安定した需要先である日本を重視するという認識が関係者の思考を支配していました。

Great Growth 2015の足取り

 Great Growth 2015が動き始めた2007年産の菜種生産量は960万トンで、計画は順調に滑り出しました。次いで、2008年産は1200万トンを超え、関係者は1500万トン計画が画餅ではないとの期待を抱きました。そして、2011年産の生産量は1,470万トンと、目標をほぼ達成する成果を挙げました。この目覚ましい増産は、主として生産面積の増加が寄与するもので、30%の上昇を見込んだ単収はまだ10%程度の上昇にとどまっていました。生産面積の拡大は、菜種の収益性が恒常的に小麦、大麦の収益性を上回り、収益の極大化を目指す農家が休耕地を活用するなど菜種の生産面積を拡大したことによるものでした。しかし、菜種の生産面積が増加するあまり、適正な輪作体系が崩れ、同じ農場に菜種を連作する現象が広がりました。このことは、カナダが標榜する持続的農業(Sustainable Agriculture)の推進にとっては好ましい現象ではありませんでした。
 品質面では、油分の向上が着実に進み、平均的な油分を45%とする目標はほぼ達成され、将来の生産増加を確信した製油業界は新規投資を継続し、搾油能力の増強が着実に進みました。
 コアの課題であった「菜種の単収の向上」を除き、計画は順調に進展したのです。

 2012年7月、カナダで開催された日加菜種予備協議で、カナダ菜種協会は、同年の菜種生産量が1,600万トンを上回り、2015年の目標を3年前倒しで達成する見込みであるとし、次期計画への思いが熱く語られました。しかし、その夏、北米大陸を襲った大干ばつはカナダの菜種生産にも深刻なダメージを与えており、最終的な生産量は1,400万トンを下回り、菜種関係者には失望感が漂うこととなりました。

 その失望感は1年で払拭されます。2013年産の菜種は、生育にとって理想的な天候条件に恵まれ、菜種の単収はGreat Growth 2015で目標とした35%向上をほぼ達成する結果となりました。結果として、計画は2年早く達成されることとなりました。
 カナダ菜種協会は、Great Growth 2015は既に達成されたとして、次の生産拡大計画の策定に向けて作業が急ピッチで進められました。

【 表2 Great Growth 2015の歩み 】 表2  Great Growth 2015の歩み
資料:
カナダ統計局。2013年の数値は見込み。

注: 2015年の目標数値

収穫面積は基準年(2006年)の13百万エーカーの30%増
単収は、同じく基準年の30.5ブッシェル/エーカーの35%上昇
としており、具体的数値は示されていないが、それぞれを計算し、
メートル法に換算して示している。

高い収益性に刺激され農家が播種面積を急ピッチで拡大したことは、それほど驚くことではありませんでしたが、単収がわずか7年間で30%も上昇したことは驚異的なことでした。基準年を更に遡って2001〜2年産の平均単収と比較すると、12年間で単収が70%も増加したこととなります。これは、世界の品種改良史上でも特筆するべき成果と言えるでしょう。 この成果は、現在普及している品種が、2013年のような理想的な天候条件さえ実現されれば、これだけの単収を実現しうる潜在的能力を有していることを示すものでもありました。カナダの広大な大地では、生産基盤である耕地の整備や人工的な水管理はできませんが、もし、日本の水田のような基盤の整備や適正な水管理が可能になれば、より高い単収をもたらすかもしれません。 カナダの菜種関係者が、菜種の有している潜在的生産能力に自信を抱いたことが、新しい、野心的な生産拡大計画である”Keep it coming” の推進力となりました。

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