どこまで伸びる、中国の植物油需要

3.中国の植物油事情

 中国は、パーム油の生産国であるインドネシア、マレーシアに次ぐ世界第3位の植物油生産国となりました。そして、消費量は世界最大となりました。また、表4に示したとおり、世界の大豆貿易量(輸入量)の6割近くを中国が輸入することとなり、この輸入の拡大が、国内の植物油需要を支えているのです。

(1)植物油の食用需要は増加基調が継続

 第3回東アジア植物油フォーラムにおいて、中国代表団は2011/12年度の植物油総需要量が2,800万トンに達し、このうち2,630万トンが食用需要であることを明らかにしました(表3の数値と少し異なるのは、年度と暦年による相違です)。
 2011年の日本の食用需要量が233万トン(農林水産省推計)ですから、日本の11倍の量となります。中国の人口が、日本の約11倍弱であることを考慮すると、植物油の一人あたりの平均需要量は、ほぼ同じぐらいのレベルにあると考えてよいでしょう。
 *2011年6月の人口:中国 1,347百万人、 日本 126百万人

 前出オイルワールド誌によれば、1997/98年度の中国の植物油消費量は、非食用も含め1,000万トン程度でした。しかし、2000年代になって、需要量が急増しました。
 1990年代半ばより、中国の沿岸部には国際資本と国内資本(旧国家企業)との合弁などにより、最新鋭で大型の大豆搾油・精製工場が争うように建設され、植物油の供給能力が急速に向上しました。外資の進出は、中国のWTO加盟(2001年12月)を想定し、植物油と大豆ミールの需要が急速に増加するとの見通しと、中国の中央政府や地方政府の積極的な外資導入策によるものでした。そして、そのもくろみどおり中国の植物油と大豆ミールの需要は増加し、植物油の需要は図1に示すとおり平均すると1年間に100万トンを少し上回る増加となりました。
 中国植物油行業協会の説明では、このところ需要の増加は緩やかになったとしていますが、図1にあるとおり最近(2011/12年)になって、急に増加していることに気付きます。
 会議の席で、中国代表団から2つの重要な発言がありました。
 一つは、中国政府が過熱気味の需要を抑制する方針を明確にしたことです。中国では植物油に限らず多くの商品について、行き過ぎた公的消費が行われていることが社会的問題となり、政府は2012年末に「公費倹約令」を定め、政府関係者に公費支出の倹約を要求しました。このため、公費による飲食や贈呈品の購入を禁止する動きが広まり、植物油についてもその効果が現れつつあることが示されました。その効果が顕著になれば、図1のグラフは、やがて上昇カーブが鈍化することになると見込まれます。

 もう一つは、植物油の供給能力が過剰であり、その削減が今後の大きい課題になるということでした。削減とは、具体的には工場の統廃合を意味することとなりますが、それには具体的な言及はなく、企業運営に合理化や、施設・機械の効率的利用が必要であるとの発言に留まりました。


【 図1 中国の植物油需要量(食用)の推移 】
(単位:万トン)
図1 中国の植物油需要量(食用)の推移
資料:第3回東アジア植物油フォーラムで中国植物油行業協会が提示したもの

(2)中国の総搾油能力は1億トンを上回る?

 中国の搾油能力については、1年間に処理できる油糧種子の数量が、大豆換算で1億トン、菜種換算で6,000万トンという数字が示されました。しかし、この数字は大豆と菜種に含まれる油分を考慮すると整合しない面があります。菜種に含まれる油分は大豆の油分の2倍強になるので、菜種換算の6,000万トンが正しいとすれば、大豆換算の能力はもう少し大きくなるのではないかと見込まれます。アメリカの関係者の推計では、総搾油能力は大豆換算で1億2,000万トンとしていることを考慮すると、1億~1億2,000万トンの間に位置すると考えてよいのかもしれません。
 5年前、中国植物油行業協会は、総搾油能力を大豆換算で8,000万トンとしていましたので、この5年間で能力が更に拡大したこととなります。
 約1億トンの年間搾油能力(大豆換算)を1日当たりに換算すると、3万トン強となりますが、その62%が上位12社で占められています。
 図2は、上位12企業の1日当たり大豆の搾油能力(処理能力)の分布を示しており、最大の大豆搾油企業は、1日当り45,600トンの大豆を搾油することができる能力を有しています。かって4,000近くあったとされる中国の製油企業ですが、その後大幅に淘汰が進んだことが伝えられていますが、その正確な企業数は明らかにされていません。12という企業数は、中国の製油企業のごく一握りの存在であり、寡占化状態にあることは確かなことでしょう。


【 図2 主要大豆搾油企業の1日当たり処理能力 】
(単位:トン)
図2 主要大豆搾油企業の1日当たり処理能力
資料:図1に同じ

(3)輸入原料依存を強める中国の製油業

 これらの大規模企業の工場は、1990年代半ばから設立された新鋭の装置・機械を備えており、中国の沿海部に立地しています。中国は、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンに次ぐ大豆の大生産国ですが、大豆の生産地は内陸部にあり、沿海部に立地する工場は原料の供給を輸入に依存することとなります。そして、それらの寡占度が高まっていくことは、内陸部に立地していた大豆搾油工場を排除する方向に働きます。
 内陸部の大豆搾油工場の後退を直接に示す資料はありませんが、図3がその事情を語っていると考えられます。図3は、オイルワールド誌による中国の大豆輸入量と、大豆搾油量を示しています。


【 図3 中国の大豆生産量、輸入量、搾油量 】
(単位:千トン)
図2 主要大豆搾油企業の1日当たり処理能力
資料:表1に同じ
注: 輸入量と搾油量は暦年、生産量は作物年度

 図3で明らかなように、この2,3年は輸入量と搾油量がほぼ同量になっています。2007年までは、搾油量が輸入量を上回っており、その差を国産大豆の利用で補ってきたと見られます。しかし、2008年を境に輸入量と搾油量が拮抗し、国産大豆が搾油用に用いられなくなったと推察されます。このことは、内陸部に立地して国産大豆を搾油していた小規模の搾油工場が廃業などを余儀なくされたことを意味するものと考えられます。
 先に、植物油消費の倹約が進められてはいることを述べましたが、大豆の搾油量と輸入量は今後も増えていくことが予想されます。大豆の搾油は、大豆油の需要ではなく、大豆ミールの需要すなわち畜産業の飼料需要に見合うように行われるからです。その結果として、油の供給量が過大になるときは、現在輸入している大豆油、菜種油、パーム油などの数量を減らすことで調整が図られると見込まれます。
 表4で見たとおり、中国は世界の大豆貿易量の60%を輸入する存在ですが、これからも輸入量が増えるとすれば、大豆の国際需給に更に大きい影響を及ぼすこととなります。
  このような状況の下で、中国代表団は、今後、過剰供給能力の整理が行われるかもしれないことを示唆しました。しかし、それがどのように実行されるのかは不透明です。それぞれの企業が整理対象となることを避けるため、能力過剰と見られないよう工場の稼働率を高める方向に動けば、大豆や菜種などの油糧種子の輸入需要はさらに増加し、国際市場を左右する存在になることとなります。
 中国の製油業界の動向は、私ども日本の製油業界だけではなく、日本の食生活にも影響を及ぼす存在になったことを理解しなければならないのではないでしょうか。

PREVMENUNEXT