時間栄養学とは

3.時間栄養学の考え方

(1)体内時計の異常が肥満・糖尿病に与える影響

 シフトワーク(昼勤と夜勤の繰り返しなど生活リズムが一定しないような勤務形態を言う)が肥満のリスクになることを支持する多くの研究結果がある一方、シフトワークが2型糖尿病(生活習慣病などにより、インスリン分泌低下や、インスリン抵抗性が高まる糖尿病)に影響するかどうかについては、まだ確立された研究結果はありません。しかし25〜67歳の女性看護士を対象とした研究で、シフトワークが2型糖尿病の発症リスクになり得るというコホート研究結果が最近発表されました。1か月に3回のシフトワークのある看護師さん達を18〜20年間追跡した研究によると、シフトワークがない人に比較して、糖尿病の危険率のオッズ比が1.3〜1.4倍程度上がるという結果が示されています。
 シフトワークのある場合には、慢性的な睡眠障害が起こり、脂肪の嗜好性が高まり、体内時計が異常な時間帯に食事をとることになりますが、このような変化が肥満・糖尿病の要因になりうるというものです。この研究以外にも、シフトワークが心血管障害の発症要因や発癌のリスクになり、あるいは、睡眠障害やうつ病になりやすいというような報告もあります。

 マウスを用いたシフトワークモデルの研究も行われています。マウスやラットに、週の前半と後半で生活リズムが10時間ずれるようなシフトワークを与えると、肥満が加速し、インスリンの調節機能に障害がでることが分かりました。また別のモデルでは、明暗周期の暗の時間帯に低照度の光をあてると、非活動期でも摂食活動が増大し、結果的に肥満になることが知られています。さらに高脂肪食をマウスに与える実験で、明暗の周期を3時間毎に繰り返すと、マウスは体内時計に同調できず、通常の明暗条件で飼育しているマウスより体重増加が著しいという結果が得られています。
 人間でも、28時間を周期として睡眠―覚醒に強制的に同調させると、24時間周期と一致しない時刻に、特に糖耐性やインスリン抵抗性が出現することが知られています。
 以上の結果をまとめると、体内時計の24時間周期合わないような明暗環境やリズム形成は、体内時計を不調にし、摂食行動パターンを異常にし、結果的に肥満・糖尿病の悪化リスクになる可能性が高いことを示しています。

 先に述べましたマウスの時計遺伝子Clockを構成する塩基の一部を置換し、肥満にどのように影響するかという関係の研究が行われ、Clock遺伝子の異常が、肥満のリスク要因になることが報告されています。またマウスを用いた研究で、Clock遺伝子の変異が、高コレステロールや肝臓の線維症をもたらすことも知られています。この遺伝子変異を加えたマウスの実験では、通常のマウスでは休息期である日中にも摂食行動を呈し、高カロリー食を与えると体重増加が加速されてメタボリックシンドローム様の症状を示すようになることが指摘されています。
 また膵臓のβ細胞(ランゲルハンス島を形成する細胞群の一つで、インスリンを分泌する機能を有している)でのインスリン合成も、体内時計が支配しています。膵臓のPer2(体内時計をつかさどる遺伝子の一つです)のリズムは24時間周期を示しており、膵臓に発現するBmal1(遺伝子の一つ)とClockを特異的に欠損させたマウスを用いた実験では、ランゲルハンス島の形成が不全になり、糖尿病を発症することが観察されています。

(2)食事のタイミングと肥満

 食事のタイミングの違いが、肥満や糖尿病をもたらす要因になるという考え方があります。
 朝食を食べない人が肥満になりやすい傾向にあることは、特に学童期から青年期の人を対象とした研究で明らかになっています。
 これは朝食を食べないと、どうしてもまとまった食事を夕食、それも遅い夕食を取るようになりがちで、そのことが肥満の要因になるのだと考えられています。確かに朝食にウエイトを置いた食事は満足感が得られ、結果として1日の全体の食事摂取量が少なくなるので肥満防止に効果があります。スウェーデンで、BMIが30以上の人と30以下の人を対象に食のパターンと食のサイズ(量)を調べた研究によると、BMIが30以上の人は、朝食、昼食の欠食率が高く、夜食の摂取率が高いという結果が出ています。
 私たちは、マウスに牛脂を15%混合した餌を1日の総給餌量が一定となるように調整して、次の6条件で与えてそれぞれの群ごとに体重や血糖等の変化を観察する実験を行いました。
 @ 自由摂食
 A 朝食のみを与える(朝4:夕0)
 B 朝夕とも与えるが朝食を多くする(朝3:夕1)
 C 朝食と夕食を均等に与える(朝2:夕2)
 D 朝夕とも与えるが夕食を多くする(朝1:夕3)
 E 夕食のみを与える(朝0:夕4)
 この結果、図2に示したように、体重の増加は、@自由摂食、E夕食のみを与える、D夕食を多く与える、A朝食のみを与える、C朝食を多く与える、B朝食を多く与える、の順に多くなりました。また空腹時の血糖、内臓脂肪の測定の結果も同様に、この順で高くなっていました。
 この研究に続いて、マウスに1日の給餌量は一定にして朝夕の2食を与えることとし、次の2群に分けた実験をしました。
 @朝食を高脂肪食、夕食を普通食にする群、
 A朝食を普通食、夕食を高脂肪食にする群(@の逆の群)。
 その結果、体重増加や内臓脂肪、血糖値はいずれもAの夕食に高脂肪食を摂取した群で高くなることが分かりました。それぞれの群ごとに呼吸商(体内で一定時間内に栄養素が分解されてエネルギーに転換するまでに消費される酸素と排出される二酸化炭素の体積比)を調べると、夕食に高脂肪食を与えた群は、脂肪の燃焼より炭水化物の燃焼に傾いていることが分かりました。このことがAの群のマウスの脂肪蓄積を促進させ、肥満を助長させたと考えられます。
 また同じくマウスへの給餌実験で、1日3食と比較して、1日2食を朝と昼とに与える群と昼と夕とに与える群を用意し比較すると、昼・夕の2食群は、3食群や朝・昼の2食群に比較して肥満になり、体内時計の遺伝子発現も夕食側に引っ張られる傾向が見られました。
 このように、1日を通した食事内容は同じであっても、朝食と夕食の食べ方を変えることで肥満防止ができることが明らかになりました。


【 図2 給餌のタイミングが体重変化に及ぼす影響 】
図1 シカゴ市場における大豆先物価格の推移
自由摂食に比較し、制限給餌は体重増加が小さく、朝食3:夕食1が体重増加を一番抑制する。

(3)DIT

 少し専門的になりますが、人のエネルギー代謝は、基礎代謝、運動性の代謝、食事誘導生体熱産生(Diet-induced thermogenesis, DIT)の3つの要因で生じます。このうちDITとは、食事をとることによって生じる代謝で、食事の後に安静にしていても体が暖まるのはこの代謝によるものです。DITは栄養素によって異なることがよく知られており、たんぱく質:30%、糖質:5%、脂質:4%、炭水化物:10%となるので、タンパク質を多く含む食事はDITを誘導しやすいこととなります。
 食事の回数に注目して、ラットに1日に6〜8食の餌を与える場合と1〜2食しか与えない場合で、エネルギー代謝や内臓脂肪の相異を調べると、数度に分割して餌を与えた方は内臓脂肪がつきにくいことが明らかにされています。このことは人の場合にも該当し、朝食の欠食や一度にまとめて食事を取ると太りやすいことが知られています。
 また朝食・昼食・夕食後のDITの相異を調べると、朝食後のDITが一番大きく、昼食、夕食の順で低くなっていくことが知られています。したがって、夕食に重点を置く食事はDITが小さいため、肥満の要因になる可能性が高いことが指摘できます。

(4)朝型・夜型嗜好性と食事内容

 栄養系の大学に学ぶ女子大生約3300人を対象として、1日の生活パターンについて朝型・夜型アンケート調査を行い、就寝時間と起床時間から推測して朝型・夜型の群に分け、それぞれの群ごとに嗜好性と食事内容の関係を調べてみました。
その結果、朝型嗜好性の人は夜型の人に比較して、次の特徴が見られました。
 @炭水化物、タンパク質の摂取が多く、脂肪の摂取が少ないこと。
 Aお米、野菜、乳製品の摂取が多く、逆に菓子、麺類、油脂の摂取が少ないこと。
 B朝・昼・夕のいずれの食事の欠食率も低いこと。
以上の結果は、体内時計で支配される朝型・夜型嗜好性が食事内容にも影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。あるいは、このような食事内容の嗜好性が体内時計の位相に影響を及ぼし、朝型・夜型を生み出しているとも考えられます。

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