ちょっと不安が生じた菜種の供給
2.品質向上に努力する生産農家

 ただ、これらの華やかさから一歩郊外へ出て菜種圃場を見ると、例年とは少し異なる風景が目に飛び込んできました。例年であれば7月の終わりには菜種は開花期をそろそろ終え、結実から充実期を迎える時期ですが、今年はまだ菜種の花が織りなす黄金色の絨毯の広がっているところが随所に見られ、生育が少し遅れていることを物語っていました。また菜種圃場のところどころが無毛の土色になっており、菜種が生育していないことを示していました。

 広大なカナダの平原州で展開される農業は、天候が支配する農業でもあります。日本の水田のように灌漑設備を整備すれば、水害・干ばつをある程度回避することも可能ですが、広大な農地の潅漑は容易ではなく、天文学的投資を必要とします。天候は予測しがたく、菜種の生育段階ごとの天候の移り変わりに農家は一喜一憂しなければなりません。しかしそれでも菜種の品質管理のため、カナダの農家は懸命の努力をしています。

 会議に先立って行われた農場見学では、そんな農家の努力の一面を垣間見ることができました。フランソワ・メシエールさんは、元大学教授でエコロジーの研究者でしたが、自然と農業好きが高じて大学を退職し、農家となった方です。メシエールさんは、菜種が健全に生育するための栽培技術、品質を高めるための収穫技術、そして収穫後も高い品質を保持するための貯蔵技術などの開発に努力されています。

 その一例を挙げてみましょう。

(1)優しい播種技術

 菜種は地表から1インチの深さに均等に播種されれば理想的な発芽・生育が得られるとされています。しかし幅15mを超える大型播種機のタイヤが自重によって農場にめりこみ、均一性を壊しがちになります。これを回避するため、播種機の改良を進められました。他の農場では菜種の生育に凸凹が生じているのに対し、メシエールさんの農場では菜種の花が均等の高さで咲き誇っていました。

(2)収穫後の菜種の低温貯蔵

 収穫後の菜種は、まず農家の貯蔵施設(サイロ)に保管されます。この農場での保管状態が、菜種の品質に大きく影響することから、カナダの農家は冷風送風措置付きのサイロを整備しています。メシエールさんは、温度センサー付きのサイロを整備されていますが、真夏にあってもサイロの内部は氷点下を維持していることは驚きでした。

 メシエールさんは、サスカッチェワン州の農家の先駆者として、若い農家の指導にも当たっておられますが、このような農家の工夫が品質の高い菜種の安定供給に寄与していることを学びました。


【 図2 メシエールさんの所有する低温サイロ 】
(これで所有するサイロの4分の1だそうです)

 図2 メシエールさんの所有する低温サイロ

【 図3 サイロ内部が氷点下であることを説明するメシエールさん 】
(手に持っておられるのが温度計。左側の方は通訳のIkumiさん)

 図3 サイロ内部が氷点下であることを説明するメシエールさん

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