なたねの安定供給に黄信号? ~ バイオディーゼル需要の増加がもたらす波紋 ~
高値が続く油糧種子と植物油の国際価格

 EUのバイオディーゼル利用の拡大は、世界のなたねとなたね油の需給に大きな影響を及ぼします。
世界のなたね生産量は2005/06年には4,800万トンに達していますが、他の国に供給できる余力を有している国はカナダとオーストラリアに限られ、貿易に振り向けられる数量は700万トン程度に過ぎません。このような規模の国際市場に大量のバイオディーゼル需要が発生すれば、需給が逼迫し、なたね価格の高騰は避けられなくなります。

 なたねの国際市場は、既にカナダの生産が昨年より下回るという見込みと今後の強い需要を折り込み、この春以来価格が上昇を続けています。昨年のこの時期、ウイニペッグ市場のなたね価格は260ドル/1トン前後で推移していましたが、今では300ドルを機軸に動くようになりました。本年のカナダ産なたねの減産が明らかになると更に上昇することは明らかですが、これにカナダドルの上昇が加わり、日本の製油工場が取得する価格は更に高いものとなると見込まれます。

 なたねに先行して、なたね油の価格はこれまでになく高い水準に張り付き、EUの入口に当たるロッテルダム市場のなたね油価格はトン当たり800ドルを超す水準で推移しています。なたねの価格は、このような油価格の高騰に支えられ、上昇を続けているのです。

 バイオディーゼル需要は、大豆油にも影響を及ぼしています。シカゴ先物市場の大豆油価格は1ポンド当たり26セントを超え、オイルバリュー(一定量の大豆から製造される油とミールの売上合計に占める油の割合)は45%に達しています。大豆油、なたね油にかかわらず、植物油の国際価格はかってない上昇を続け、それぞれの種子の価格を押し上げています。ここで注目しなければならないのは、油糧種子の在庫率(需要量に対する在庫量の割合)が過去に比べて高い水準にあるにもかかわらず、価格が高水準にあることで、これまでの市場の経験とは異なった状況が生じていることです。

 油糧種子とその加工品に関する国際的統計の権威である「オイル・ワールド誌」の本年8月4日号は、次のような予測を発表しています。

 「我々の予測では、2006/07年の主要10油糧種子の需要は生産量を上回り、不足分は庫の減少で補うことになるだろう」


【表5 主要10油糧種子の需給見込み】

表5 主要10油糧種子の需給見込み

 この数年間、中国などの食用需要の急速な増加に伴い、生産量の増加率を需要量の増加率が上回る傾向が見られましたが、ついに数量そのものに逆転現象が生じるという予測となりました。

 また、アメリカ農務省の8月14日付け予測では、「ミネソタ、アイオワ、ミズーリーの各州では、5~7月の降水量は1988年以来の最低を記録した」ことを示し、大豆生産地域が広範な範囲で高温・乾燥に見舞われたことを述べています。この影響により、アメリカの大豆生産が前年の8,399万トンから7,969万トンに減少し、世界の油糧種子生産も前年より650万トン程度減少すると見込んでいます。また、重ねて気になることは、この天候が大豆の登熟を促進し、例年より早く収穫が行われるとの情報で、成熟が十分でない大豆が多くなるかもしれないことを示唆しています。

 このような生産予測が支配的な中で、当面の需給は必ずしも逼迫していないものの価格だけが先行指標として上昇するという現象が生じています。そして、私ども日本で植物油製造を行う業界にも、“安定供給の不安”、“製造コストの増大”という影響を及ぼしています。

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