なたねの安定供給に黄信号? ~ バイオディーゼル需要の増加がもたらす波紋 ~
EUのバイオディーゼルを巡る事情

 それでは、EUのバイオディーゼルを巡る状況を少し説明しましょう。バイオディーゼルとは、植物由来の油から燃料となる軽油を作ろうというものです。その狙いは、化石燃料の消費節減と環境負荷の低減にあります。無論、バイオディーゼルも燃焼すれば炭酸ガスを発生しますが、その原料である油糧種子(植物)が、成育過程で炭酸ガスを吸収するため、炭酸ガス収支は差引ゼロとなり、環境負荷を高めないという理由が背景になっています。EUは、この考え方に基づき、地球温暖化防止の取り組みを定めた京都議定書に沿った対策を講じるため、バイオディーゼル利用の拡大を意図しています。

 このようなEUの動きについて、本年の6月14~16日に開催された第75回国際搾油業者協会世界大会で、EUの植物油協会(FEDIOL)会長であるドイツのVon Wissel氏は、表3を示しながら次のような報告を行っています。

 「EUは、2010年にディーゼル燃料に5.75%のバイオディーゼル利用を義務づける。バイオディーゼル生産のため1,275万トンの植物油を利用することを目標としており、2005年にはおよそ320万トンの植物油がバイオディーゼル生産に利用されている」。


【表3 EUのバイオディーゼル向け植物油需要予測】

表3 EUのバイオディーゼル向け植物油需要予測

 これによれば、2006年にバイオディーゼルに用いられるなたね油は約348万トンとなっています。2005年に日本で消費されたなたね油は約95万トンですから、バイオディーゼルだけでその4倍近い数量が消費され、2010年には更に倍増するという見込みです。

 しかし、これだけの植物油を供給する能力はEUにはありません。このため、EUは、次のようなシナリオを描いています。

 「2003年を基準に、2010年にはなたねの作付面積が62%、収量が24%それぞれ増加しなたねの生産量は倍増する。更に、品種改良による油分の向上によりなたね油の生産可能量が増加し、970万トン程度が域内で供給可能と見込まれる。これに輸入なたねを加え、990万トンのなたね油が生産できるようになる」。

 意欲的な構想と評価することもできますが、わずか7年間に生産を倍増するとの構想は絵餅と言わざるを得ないでしょう。このシナリオに基づいて、なたね油の需給が次のように推移すると想定しています。


【表4 EUにおけるなたね油需給の予測】

表4 EUにおけるなたね油需給の予測

 2005年には燃料用に利用される植物油が、食用などへの利用数量を上回り、2010年にはおよそ4分の3が燃料に利用される予測になっています。

 これらの計画は、果たして予定通り進むのでしょうか。EUの2006年産なたねは、作付面積が6%拡大したものの高温・乾燥の影響により生産量は前年を下回ることが見込まれています。このように、農業が天候に左右される産業であるという特徴を考慮すれば、残念ながらこの構想は絵餅に終わる可能性が高いと考えられます。

 したがって、域内のなたね生産の変化とは関わりなしにバイオディーゼルの計画だけが予定どおり進むのであれば、EUは不足するなたね又はなたね油を他の国から調達しなければなりません。そのことは、なたねの国際需給を一層逼迫させる要因になります。

PREVMENUNEXT