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 「揚げ油は何回ぐらい使用できますか?」というご質問がしばしば寄せられます。これも非常にお答えすることが難しいご質問です。自治体の公的機関などが、“油は何回でも使用できる”というレポートを出されていることや、天ぷら屋さんが、“うちではさし油をして同じ油を使い続けている”とお話しされることなどが影響しているのでしょうか。

 これらのレポートを丁寧に読んでみましょう。何回でも使用できるという根拠は、「新しい油で揚げ物をはじめたら、一定時間ごとに新しい油を追加する(さし油)ことによって油の品質は一定に保たれるので、継続的な使用が可能である」というものです。ここで重要なのは“連続的な使用”です。確かに一定時間内にさし油を繰り返せば油の品質をほぼ一定に保つことは可能ですが、毎日連続して使用していることが前提となっています。街の天ぷら屋さんは、毎日、天ぷらを揚げていますから、油は連続的に使用されていることになります。

 しかし、ご家庭では、毎日揚げ物をするというご家庭を除けば、油を連続的に使用することはあり得ないことです。過去に私たちが実施した調査では、ご家庭で揚げ物をされるのは、平均すると1カ月に1~2回という回答が最も多くありました。仮に月2回とすると、次に使用するまで平均15日間の期間があります。新しい油は密閉していれば変質することは希ですが、使用済み油には様々な物質が溶け込んでいて、これらが品質の劣化を促進します。特に、魚介や肉類を揚げた後の油では、一層劣化しやすい状況にあります。劣化が進んだ場合には、どれだけさし油をしても、品質が一定レベルに戻ることはありません。“油は何回でも使用できる”という説は、ご家庭での実際の使用条件を前提とするものではなく、連続して使用する場合の実験例に過ぎないのです。このような誤解を招くレポートは、私たちのみならず、消費者の皆様方にとっても迷惑この上もないものであると考えます。

 油の主な機能は、サラダなど生で食べるほかには、「揚げる」、「炒める」にあります。見た目がドロリとして、加熱するとやたらと粘着質の泡が立つときは、油本来の機能が失われていると考えてよいでしょう。このような状態になったら使用をやめる時期です。ご自分の目で変化をしっかりと確かめて、適切な使用をしていただきたいと願っています。

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