タイトル


 「外国の農産物は安全性が気がかりだ」という趣旨のご意見も多く、私たちが実施したアンケートでも、「植物油の原料が外国産だから、安全性を懸念する」、「外国では政府が厳しい規制をしていても、守られているかどうか疑問だ」というご回答が多く寄せられました。でも、本当にそうなのでしょうか。

 私たちは、長年にわたって原料供給国の農家との会話を続けてきました。その席で、このような話をすると、決まって悲しそうな困惑した表情で、「日本の皆様は、どうして私たちを信用してくださらないのですか?」と質問されます。彼らは明言こそしませんが、“日本の気候は年間を通じて湿潤・温暖で、狭い耕地を休みなく利用するため病害の温床になりがちである。したがって、農薬の使用密度は世界でも高い部類に属する”という知識を有しています。残念ながら、国内に油糧種子の生産がないため、私たちは日本と海外供給国との比較をすることができませんが、それぞれの国の農業がおかれた環境を冷静に見ると、彼らが抱く懸念も現実の一つではないかと拝察しています。

 日本は、世界150カ国近くから“食料・食品”を輸入しています。このため、政府は農産物の安全管理への万全の注意を要請し、これを受けて食料の輸入を行う業界では、供給国で使用されている農薬の種類、使用実態、残留規制などを調べることが最も重要な課題となっています。

 私たちが使用する油糧種子は、供給国が比較的限定され、これらの情報を得やすい環境にあります。アメリカやカナダとの定期協議の席でも、絶えず重要な議題として意見や情報の交換を行っています。

 昨年、アメリカ大豆生産者との意見交換会の席で、次のような説明がありました。

 「アメリカでは、農薬を散布する者(農家及び散布業者)は、州政府に登録して許可を得るために指定の大学で研修を義務づけられる。研修は、農薬散布に関する課程だけではなく、法律や環境問題も必須科目である。およそ3年で、更新のための研修を受けなければならない。実際に農薬を散布するときには、農薬の種類と数量、散布面積、風向及び風力、散布方法などの情報を届け出なければならない。それで問題があれば、収穫物の出荷が規制される」。



 私たちが、アメリカの大豆畑を見学した際、イナゴが大発生して大豆を食い荒らしていました。日本であれば早々に薬剤散布が行われるところですが、アメリカでは、まだ、薬剤散布が認められるレベルではないという判断でした。広大な大地で、休閑を含む輪作体系を採用しているため、通常の気候条件の場合には特定の病害虫が集中的に発生することがないことも薬剤使用を抑制する要素になっています。広大な大地を有する農業は、農薬使用を節減する面でも日本より遙かに有利な条件があることを実感させるものでした。逆に、広大な耕地であるため、有機農法の実施は非常に困難なものになります。土地の広いことが不利に働く側面もあるのです。私たちは、海外の原料供給国を弁護しようとするものではなく、このような状況を冷静に観察し、国や農業形態の相違はあっても、安全でおいしい農産物を届けたいとする農家の情熱には変わりがないことを理解する必要があると考えます。

 政府による農薬の残留規制も、日本と同レベルの厳しい施策が実施されています。そして、何よりも、輸入する際には日本政府によるモニタリングが実施され、残留許容基準を超える農薬が検出されれば、食料の油原料として使用することはできなくなります。幸いにも、油糧種子については、これまで、モニタリングによって許容基準を超える農薬が検出されることはほとんどありません。

 農産物は、大切な資源です。これを有効に利用することは、私たちに与えられた使命の一つでもあります。大切に利用するためには、安全であることが何よりも重要です。農産物を販売する側は、このことを真摯に受け止めてはじめて安定した供給者であることができます。

 日本政府は、食品衛生法を改正し、2006年から農薬の規制を更に厳しくし、植物油についても残留許容基準を定めることが検討されています。厚生労働省に寄せられた意見の中に、「外国に対し、日本で許容されている農薬以外は使用しないことを要求するべきである」という意見がありました。しかし、それぞれの国には固有の病虫害があり、それを防除することが必要になります。日本を世界の中心に据える、天動説にも似た意見は失笑を買うだけではないでしょうか。

 私たちは、これまで以上に海外の供給国の情報収集に努めて、日本政府の政策が円滑に進むよう協力したいと考えています。

PREVMENUNEXT