7.原料輸入、国内搾油方式の利点

(1)原料在庫による供給の安定

 供給不安を軽減するために必要な、そして比較的実行しやすい対策は、在庫を多く持つことです。1973年の米国(当時はニクソン大統領)による大豆禁輸で大きな影響を受けたわが国が、不測の事態への対策として目に見える形で実施している政策が大豆の備蓄です。

 原料を輸入するということは、当然原料の在庫を持たなければなりません。スムーズに工場を動かすためには、使用する原料の1~2カ月を在庫としてサイロに常時保管し、余裕を持たせなければなりません。自動車企業の看板方式のように、自社の在庫をぎりぎりまで減らす方法は、コスト削減効果は大きいのですが、海外から原料を輸入する製油業にとってリスクが大きく、安定供給を責務とする私たちには選択できない方策です。やはり、コストが少々嵩んでも不安が生じない原料在庫を持つ必要があります。原料だけではなく原油と精製油の在庫を合わせ持つことになりますので、原油や精製油を輸入する方式よりも在庫総量はかなり多くなりますが、安定供給のためには不可欠の課題です。

  私たち製油企業はそういった安定供給を図るための原料、原油、精製油の在庫設備に対して大きな投資を行っていますが、原料から製品に至るまでの段階で在庫を持つことにより、それだけ供給の安定性を増し、リスクを軽減できていることになります。

(2)原料の段階からトレーサビリティーが可能なこと

  食品メーカーに今、求められているのは安心・安全ということですが、そのためには、自社の工場の衛生管理を万全にするだけでは十分ではなく、購入する資材についても、その履歴をはっきりとさせる必要があります。輸入品の場合は、仕入れ先の衛生管理にまできちんと気を配ることには大変な困難を伴います。そして、加工度が高まるほど安全・衛生面において不安を抱え込むことにつながります。原料の形で輸入を行い、原料段階からすべて国内で処理されていれば、トレーサビリティーも完全にできるため、安心・安全の確保という面から原料での輸入が望ましいことになります。
 
(3)国内搾油によりミールの供給も安定すること

 大豆や菜種の油脂原料は、食用油と同時に、ミール(粕)の原料でもあります。粕という言葉から油の副産物のように捉えられがちですが、製油業は油とミールという二つの主製品を製造している産業と理解していただく方が適切です。特に大豆の場合は、主要生産国では油原料というより、牛などの飼料の蛋白源としての役割の方が中心で、油は副産物と位置づける方が実態に即しているのではないかと思います。何しろ、大豆1kgから生産される食用油は180g~190g程度であるのに対し、ミールは770 ~780gが生産されるのです。数量ではミールが主産物と言っても過言ではありません。

 日本でも、大豆ミールなしでは畜産業は成り立たないといっても言い過ぎではないでしょう。わが国の畜産業は、ほとんどの原料を輸入に頼っており、主原料であるトウモロコシは全量(約1,160 万トン)が輸入されており、大豆ミールについては総使用量約320 万トンのうち約3分の1(約97万トン)が輸入され、残る200万トン強を製油企業が供給しています。BSEの発生以来、畜産業における大豆ミールの需要が急速に増加しており、その3分の2を国内で供給していることが、配合飼料メーカーと畜産業に安心感を与えています。

 もし、植物油供給の多くを輸入に依存することになれば、畜産業にとって重要なミールも輸入に依存しなければなりません。輸入ミールは品質の安定性、デリバリー(受け渡し)の確実性、為替変動などいくつものリスクがあり、この不安がそのまま畜産業に影響を及ぼすことになります。

 油とミールという二つの大きい需要が存在するわが国にとって、油糧原料を輸入し、それを搾油・精製して、二つの製品を安定的に供給することが合理的であると私たちは考えています。

(4)品質に優れた植物油の供給

 私たちの製油工場を訪れた海外の人達は、そこで製造される油を見て”ミラクル”と叫ぶ光景がしばしば見られます。彼らには信じがたいほどの高品質の油だからです。このことは、海外で生産されている植物油の品質がどの程度のものであるかを示しています。したがって、前述の(エ)、(オ)という選択は、特定のものを除けばあり得ないものです。過去にも最終製品となった植物油が輸入されたことがありましたが、品質・価格両面から市場で厳しい洗礼を受けています。

 世界の植物油流通は原油が主体になっています。したがって、(ウ)の原油を輸入し、国内で精製することには現実性があります。私たちも特定の油についてはこの方式を選択しています。しかし、その経験から言えば、品質の変動が大きく、長い輸送途中における変質も生じることから、精製コストが増加するというリスクがあります。やはり、原料を圧搾し、一貫工程の中で新しい原油を精製する方が、コストも低く、安定した品質の製品を供給できます。

(5)副産物の有効利用

 大豆は、その中に様々な微量成分を持っており、食用油を生産する過程でビタミンE、植物ステロール、レシチンなどの副産物が発生し、有効に利用されています。多くは精製工程で副産されるもので、原油で輸入しても採取できますが、最近は前処理で胚芽を分離し胚芽に多く含まれる植物ステロールを有効利用している例もあります。


 以上、国内で搾油が行われていることによるメリットを幾つか挙げました。私たちは、世界的に見て優れた品質の植物油を供給していることに誇りを持ち、これからも現在の植物油供給を続けていきたいと考えております。

 WTOの貿易交渉はモダリテイーの策定でもたついておりますが、これから厳しい議論が続いていくものと予想されます。私たちは、自己の利害だけをもって主張するのではなく、国内の植物油製造業が食品産業をはじめ社会に対して有している責務を認識し、日本において多様な食品産業が持続的に発展できるという視点に立って、適切な貿易政策が継続されることを念じています。

PREVMENU