6.植物油の安定供給

 わが国の製油産業と植物油の安定供給に話を進めましょう。わが国で植物油を供給する方法として、以下の5つのパターンが考えられます。

   (ア)原料を国内で生産して搾油・精製・充填する 
   (イ)原料を輸入して国内で搾油・精製・充填する
   (ウ)原油を輸入して国内で精製・充填する
   (エ)精製油を輸入して国内で充填する
   (オ)完成品を輸入して国内で販売する


 この(ア)の原料を国内で生産するという選択は、ごく一部を除き現実的ではありませんので、(イ)~(オ)について考えてみましょう。

 わが国の植物油製造は、ほとんどが、(イ)の原料を輸入して搾油・精製・充填までを一貫生産で行うという形になっています。ですから、原料で輸入して国内で搾油する場合と、原油や精製油、あるいは製品で輸入する場合との違いについて考えることにします。その前に、何故こういった比較をするのか、その理由について簡単に触れておきます。

 冒頭で紹介しましたように、WTOの多国間貿易交渉は2005年1月までに結論を出すスケジュールで進められています(実際には、大幅に遅れるものと見込まれますが)。その中で、植物油については完全に自由化されているため、輸入関税だけが論議の対象となっています。去る2~3月に、WTO農業委員会特別会合のハービンソン議長からモダリテイー案が提示されましたが、その中で関税については大幅な引き下げ案が提示されています。現行の大豆油と菜種油の関税は、原油が1 kg当たり10.90 円、精製油は同13.20 円です。この関税が大幅に引き下げられると、どのような影響が生じるのでしょうか。


 いま、世界の植物油製造業界は、一握りの巨大な多国籍(というより、無国籍)資本に席巻されようとしています。主要国では、アジアのパーム油圏と日本を除き、彼らが市場の大部分を占有する状態になりました。多国籍資本は、植物油関税だけではなく、植物油に関連するすべての食品の関税を撤廃することを主張しています。もし、彼らの主張通りになれば、その製品が一斉に日本市場に殺到し、私たち製油業界のみならず、植物油を基礎素材とする食品産業に大きい影響を及ぼすことが予想されます。

 このため、国内で搾油することがどれだけ重要な意味を有するのか、よく吟味しておく必要があるのです。
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